世の中には二種類の人間がいる

「世の中には二種類の人間がいる」
こういう言い回しを、小説やドラマの中でよく見かけることがあります。これにならって、これからのお話しを表現すると、
世の中には2種類の人間がいる。
「私にわかるように話せ」
という人間と
「私が理解してみせよう」
という人間が――
とでもなりましょうか。以下は若かりしころの私の体験です。
取引先に電話をすると、年配の男性が受話器を取りました。用件を話したところ、担当部署に電話を回してもらうことになりました。
「失礼ですが、もう一度お名前をお願いいたします」
そこで、私が自社名を言いかけると、その言葉をさえぎって、
「いや、あなたのお名前です」
と、再度質問されました。そこで自分の名を名乗ったわけですが、このなんてことのないやり取りに、一種の気づきを得ることができました。
相手方の質問は、
「(担当者の)お名前をお願いします」
のつもりだったことは明らかです。しかし、私は、社名と部署名、さらに電話を掛けた私の名前と考えて答えようと考えたのです。
そこで、私が相手側だったらどうしただろうと想像しました。おそらく、相手の答えがこちらの意図とは違っていても、途中でさえぎらずにすべて聞いたことでしょう。仮にそれが、社名や担当部署を答えるところで止まってしまったならば、
「ありがとうございます。ではご担当者のお名前をお願いいたします」
と聞いたことでしょう。
「新人類」などと呼ばれる世代が出現した1980年ごろのこと、
「言わなくともわかるだろ」→わからないから迷っているんだ!
「そんなの、常識だ」→あなたの常識なんて知らないよ!
というやり取りが、一部で繰り広げられました。
自分が当たり前だと思うことが、人によっては当たり前でないことなど、いくらでもあります。そうしたことを理解すると、生きるのが少しだけ楽になるかもしれません。それに気づかせてくれたあのときの取引先の男性に、私は感謝しています。