一人ひとりの「安心」づくり

防災の専門家として地域・学校・企業等の危機管理教育を手がける鎌田修広さん(株式会社タフ・ジャパン代表)は、「災害に強い町づくりに不可欠なものは、住民同士の心の絆。その核こそ道徳教育である」と述べています。
鎌田さんが「防災」と「道徳」の結びつきに気づいたのは、阪神・淡路大震災の震源に近い兵庫県の北淡町(現・淡路市)を訪ねたときだったといいます。
平成7年1月の震災発生時、北淡町では全世帯の6割が全半壊し、約300人もの人が生き埋めになりました。しかし、そのほとんどが消防団を中心とした住民の協力によって素早く救助され、多くの命が救われています。
この奇跡の救出劇に関心を持ち、後年、調査のために北淡町を訪れた鎌田さん。その目に飛び込んできたのは「道徳教育推進の町」という看板でした。町の人に尋ねると、確かに以前から、命の尊さや助け合いについての教育が重視されていたということです。何より日ごろ、お互いの家族構成はもちろん、「誰がどの部屋で、どちらを向いて寝ているか」まで知り得るほどの絆が育まれていたからこそ、短時間での救助が可能になったのです(参照=鎌田修広著『愛と絆で命をつなぐ「防災道徳教育」――今すぐ取り組む防災アクション〈道徳教育シリーズ〉』モラロジー研究所刊)。
災害に対する備えとして、物資の備蓄やライフラインの強化などが大切であることは、いうまでもありません。同時に日ごろ、周囲の人たちと「よりよいつながり」を築いていこうとする努力もまた大切な「備え」であり、いざというときに大きな力を発揮することを、私たち一人ひとりがあらためて考え直してみる必要があるのではないでしょうか。
「住みよい町」「安心して暮らせる町」とは、生活環境が整っていたり、行政サービスが充実していたりという「外的な条件に恵まれていること」だけが重要なのではないでしょう。そこには、自分自身も地域の一員として「安心な町の、安心な人間関係づくり」に携わっていく立場であるという自覚が不可欠です。
例えば「明るい挨拶」「近所の子供たちの成長を温かい目で見守ること」「お年寄りへの声かけ」「誰かから親切にしてもらったときに返す、心からの感謝の言葉」など。まずは身近な人たちに対して「安心や喜びを与えるはたらきかけ」を実践してみましょう。その積み重ねで、心が通い合い、互いに助け合うことのできる温かい人間関係の輪が地域全体に広がっていったなら、どんなにすばらしいことでしょうか。
安心な暮らしを送りたい――そう願うのなら、まずは自分から「安心な人間関係づくり」のための一歩を踏み出したいものです。
平成31年3月号
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