親孝行はみんなが幸せに

いのちを与え、養い育ててくれた親。それは私たちにとって非常に大きな存在で、成長して自立した後も、影響を受け続けます。
恩返しの気持ちで親孝行をやってみるのですが、これがなかなかに難しい。良かれと思ってやったことでも、良い方向に受け取ってもらえない、なんてことも……。
●ケース1
父親が突然の風邪、そのお世話をしている母親にもうつってしまう。そんな話を聞いたあなたは、休日を利用して家に戻ります。家事を片付けていくと、どうしたことかお母さんは不満顔。あなたの心の中に「せっかくやってあげたのに」という気持ちが頭をもたげます。――
実は、親の心の中には「まだまだ子供の世話にはならない!」というほのかなプライドがあるのです。自由に動かない体を抱えているときに、てきぱきと片づけをしているあなたの姿を見たとき、「親なのに何もできない自分」に対して、恥ずかしさにも似た感情が生まれてくることもあるでしょう。その思いがあなたに向けられてしまったのです。
そうしたことを避けるため、まずは親への思いやりを言葉に代えて、「体、大丈夫?」「私にできることは何かある?」という問いかけが大切になります。
苦しいときにかけてもらったひと声は、必ず心に響きます。電話するだけの親孝行もあるのです。ポイントは「心を親に傾ける」です。
●ケース2
経済的に裕福ですが、家族間の仲が悪く、重い雰囲気が漂っている。そうした家庭は幸せそうには見えないもの。
例えば、あなたに兄弟姉妹がいたとして、それぞれに仲が悪ければ親は不安を感じて安心できません。
弟が親にプレゼントを贈って、感謝の言葉を向けられている。それを見ていた兄は複雑な感情を抱いてしまう。――
きょうだい間の感情の行き違いは普通に起こりうることです。ただ、親孝行がいさかいの火種になったとしたら、そこで一番悲しむのは親。親孝行が家族間の不和の原因となるのは悲しすぎます。
親孝行は誰がやってもよいのです。親から感謝の言葉を向けられているきょうだいがいたら、「ありがとう。私も親孝行を心がけるよ」と言える心の余裕を持ちたいものです。子供たちが仲良くしていることは、親にとってかけがえのないことです。
●ケース3
親から電話がかかってきた。だけど話に繰り返しが多くて時間が費やされる。
「もう、わかっているから」と突き放してしまう。でも、時間が経つごとに罪悪感が生まれてくる。――
子供世代から見ると親世代は、頭の回転が遅く感じるものです。くどい話もその証左。そんなときは、「ああ、何か伝えたいことがあるのだろうけど、うまく言えないんだな」と受け止めましょう。
自分の話を聞いてくれるとうれしいものです。ですが、言ったそばから無視や否定をされれば傷つきます。第一声に「でも」や「だって」は厳禁。まずは「はい」と言いましょう。いったん「はい」と言った後なら、こちらの言いたいことも伝わりやすくなります。話をきちんと聞く。それも大事な親孝行です。
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「親孝行」と言うと、プレゼントをすること、食事や旅行に招待することなどを思い描く人も多いことでしょう。また、日常の手助けや、看病・介護なども、その一つとして挙げられます。
その基本としてまず考えなければならないのは「親に安心してもらう」ということです。
親にしてみれば、自分が生み育てた子供は、どんなに成長しても「わが子」です。たとえ子供が社会的経済的に自立していても、常に子供のことを心配し、気づかう存在なのです。
そうした親の心を思い、まずは自分の健康を大切にし、兄弟姉妹が仲良くすること、そして親の気持ちをきちんと受け止めることで、親の心にどれほど大きな安心と喜びが生まれることでしょうか。
親孝行をすることは、自分自身の安心にもつながります。親によし、自分によし、そして家族が幸せにすごしている風景は社会にも安心を与え、世間にもよしと言えるでしょう。