和をもって、認め合う

私たちが、先人先輩から受け継ぎ、大切にしてきたものの中に「和の心」があります。
これを説いた言葉の一つに、聖徳太子の「和を以て貴しと為す」(互いに和を大切にして、人と争わないようにしなさい)があります。これは「十七条の憲法」の第一条に述べられています。
太子が生まれた時代、豪族たちはさまざまな利害のもとに争い、混迷を深めていました。太子は争いを収めて、天皇を中心とした秩序ある国をつくりたいと願いました。そのために「冠位十二階」を定めて有能な人材を役人に登用したり、「十七条の憲法」で豪族や役人の心がまえを説いたりしました。そして、その根底に置いたものこそ、「和」の精神だったのです。
『論語』(子路篇)には、「和して同ぜず」という言葉もあります。「人と争わず仲よくすることは大切だが、自分の意見をしっかり持ち、むやみに調子を合わせたり、道理に反したことに賛成したりしない」という意味です。
責任を持って自分の意見を述べながらも、相手の個性や意見を尊重し、建設的・平和的に物事を運んでいくところに、「和」の精神の真価が発揮されるのです。反対にお互いの本当の思いや考えを知らずに、うわべだけで仲よくする「同じて和せず」の関係に陥ってしまうこともあるのではないでしょうか。
「和を以て貴しと為す」の精神は、近年の野球やサッカーなどのスポーツに見られる「チーム・ジャパン」からも感じ取ることができます。ふだんは異なるチームで活躍する選手が、〝ジャパン〟というチームのために切磋琢磨し、それぞれの役割を考え、協力していくことで、大きな力が生まれるのです。「和」の精神を持って結束する姿は、私たちにその大切さを再認識させてくれます。
私たちは互いに支え合って生きています。よりよい人間関係をつくっていくためには、自分の思いばかりにとらわれるのではなく、みずからを律し、研鑽し、そのうえでどう周囲の人々に尽くし、協力していけるかを考えていくことが大切といえるでしょう。周囲と親しみ、尊敬し、認め合う心を磨くことに心がけて日々を過ごしたいものです。