祖母が教えてくれたこと

シンガーソングライターの植村花菜さんが歌う『トイレの神様』がヒットし、日本レコード大賞優秀作品賞、作詩賞を受賞したのは平成22年のことでした。
この曲は、植村さんが小学校3年から23歳までに経験した実話を元に、おばあちゃんと遊んだ子供時代から、家族とうまくいかなかった思春期、そして祖母の最期を見送るまでが、描かれています。サビの歌詞も、実際におばあちゃんから「トイレ掃除をすると、べっぴんさんになれるんだよ」と言われた言葉をもとに作られたそうです。
初めて曲を聴いたときは、懐かしい情景が頭に浮かび、なんだか目頭が熱くなりました。女性の歌声が、男性である私の心に響いたのは、自分の子供のときの思い出と、重なるものを感じたからだと思います。
私の実家には、99歳になる祖母がいます。毎日、新聞の隅々にまで目を通し、夜はビールを晩酌し顔を赤らめる姿は、まるで仕事のあとの一杯を楽しむお父さんのようです。
幼かった私に祖母は、「毎日をありがたいという気持ちで過ごせば、必ず幸せになれるんだよ」と話をしてくれました。そして「悪いことをしても、神様はいつでも見ているんだよ」とか、「お米には八十八の神様がいるから、残してはだめだよ」など、日常の会話から物事の善悪を教えてくれたものです。
子供のころは、「また、おばあちゃん、同じことを言っている。うるさいなあ」と思ったこともしばしばありました。しかし、祖母の言葉の多くが、今の自分の考え方の元になっていることに気が付きます。
一日の終わりにその日を振り返るとき、なぜか祖母の姿が脳裏をよぎることがあります。あのときの祖母は、私の未来を案じて、いろいろなことを教えてくれていたのだと、実感できるときでもあります。
祖母からの教えを大切に日々過ごすことが、一番の祖母への恩返しとなると信じて、今日も過ごしていきたいです。