大波の中での気づき

数年前の夏のこと、私は従兄弟とともに荒れる海に飛び込みました。毎年訪れていて勝手知ったる庭のようなところだという油断もありましたし、若気の至りもあったのでしょう。
その磯には岩がいくつもあり、押し寄せる大波に洗われていました。その中に、蛇が頭を持ち上げているような形のひときわ大きな岩がありました。そこには近づかないようにしようと心に決めたのですが、海に入って30分後、大波を食らって流された私は、その岩に張り付いていました。
“このまま大波で岩の下に引きずり込まれたら溺れてしまうかも!”
寄せては引く波に翻弄されて冷静さを失い、波とともに岩の上に上ろうとする私。しかし、頂上に手が掛かるものの、そこまでいくと引く波の力でずり落ちる。どんなにがんばっても岩の上に逃れることができない。何度も上っては落ち、落ちては上る。そんなことが繰り返されて、頭の中が真っ白になりました。
あきらめかけ、いろいろなことが頭に浮かぶ中、私の中のもう一人の自分がこうささやきました。
「縦移動で岩の上に上るんじゃなくて、横に移動してぐるっと岩の裏側に回れば波をかぶらないじゃないか」
人は悩みに陥ると、どうしても悩みそのものにとらわれてしまいがちです。そんなとき、少し立ち止まって別の角度から物事を見てみることで、解決の糸口が見えてくるものです。危機を脱して心が落ち着いた私は、そうしたことに気づいたのでした。
一点だけを注視しなければならないときはあるでしょう。しかし、その一点のみにとらわれ続けるとしたらどうでしょう。周囲にある大切なことが見えなくなることにつながります。
物事の一面にとらわれず、さまざまな角度から物事を見るように心がけると、少しだけ心は軽やかになります。そうすることで、今まで気づけなかったことにも気づくことができるようになるのではないでしょうか。