「良い聴き手」になろう――〝生きる力〟をはぐくむために

以前、『ニューモラル』誌で紹介されたお話です。そこには、
「中学校の先生が『朝晩、両親に挨拶をしている人は手を挙げて』と生徒に尋ねたところ、数名しか挙手しなかった。『おはよう』『おやすみなさい』といった当たり前の挨拶を交わさない家族が増えてきているのだろうか」
とありました。
家族はもっとも身近な存在です。しかし、身近で気心が知れているがゆえに、時に心と心のコミュニケーションが不足してしまうことがあります。
「お母さん、ただいま」。
小学生の子供が元気よく帰ってきました。でもお母さんは知らん顔。
「お母さん、あのね」。子供は何か言いたいのでしょう。そばに寄ってきました。すると、
「いま忙しいのよ。それより勉強は?」
――日常の慌しさに追われていると、親はこのようにしばしば子供との心のつながりを疎かにしてしまうことがあります。
しかし、子供にとって、親と心が通じ合うことほど嬉しいことはありません。「お母さん」と子供が声をかけたら、すぐに「なあに」と答えてあげてください。どんな話でも、子供にとっては大事なことが多いのです。子供の気持ちを大切にして、子供の世界に一緒に入ってあげたいものです。
最後に、ある幼児の声をご紹介します。
「ほんとに なん(い)しょの はなし おしえてあげる。 あたしが いま とっても いっぱい かんがえて いる こと。 それはね、おかあさんにいっぱい だっこする ほうほうなのよ。 シーッ なん(い)しょよね。 かなこ」 (『ちがうぼくととりかえて』清水えみ子、童心社)
子供たちがこんな気持ちでお母さんを慕っているとしたら、「いま忙しいから、後で後で」「静かにしなさい」などとは言っていられません。
子供は親から愛され、認められることで情緒が安定し、自信や喜び、親への強い信頼感といった〝生きる力〟をはぐくんでいきます。子供の心の言葉(声)にも耳を傾けて、「良い聴き手」になってあげたいものです。