「うーん、もういいの」――子供と親の成長

幼児期における親子の心と心のつながりは、幼い子供の心の成長に大きな影響を与えます。
――わが子が笑う、親も一緒になって笑う。子供が泣く、親はおだやかに向き合ってその子の悲しみの心を感じ合う――親子の心が響き合う姿は大変に美しいものです。そして、子供が親の愛情を感じるとき、その心は安定し、親への信頼感が芽生えていきます。
ところが、日常のあわただしさに追われていると、親はしばしば子供の心を受け流してしまうことがあります。
以前、こんなエピソードを聞きました。
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母親が台所で食事の用意をしていると、幼稚園に通う女の子がやってきました。
「お母さん、あのね~」
「何よ」
「今日ね、幼稚園でヒヨコ生まれたの」
「そう、ちょっと待ってね、お母さん、今、忙しいんだから」
「…………」
(しばらくたって)
「さっきの話、なあに?」
「うーん、もういいの」
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女の子は、ヒヨコが生まれた喜びや感動をお母さんに伝え、一緒に喜んでほしかったのでしょう。しかし、その心は途切れてしまいました。
子供は、内容(事柄)を伝えるよりも、感情(気持ち)を伝えたくて、親に話しかけることが多いのです。ですから、話をしたいときに聞いてもらえないと、心は親から離れてしまい、話す気持ちが薄れてしまいます。
「お母さん」と声をかけて来たら、少し手を休めて、「なあに」と答えてあげてください。そして、子供の感情をしっかりと受け止めて、話をよく聴いてあげてください。子供は自分の話を聴いてくれていることがわかると、次々と話が出てきます。自然と会話が続き、親子の温かな心の交流が生まれてくるでしょう。
幼い子供は、どんなときでも親との心と心のつながりを求めています。そうした子供の気持ちに心を向けていくことが、子育ての本来の姿ではないでしょうか。また、その努力が親自身の成長へとつながるのではないかと思います。